ナレッジワーカーの集団にとってのアクセルは文化、ブレーキはルール。文化は行動が作る

よく、「仕事の属人性を排除して、仕組みやルールで標準化すべき」ということが言われる。これは決して間違えていないと思うけど、一方で片手落ちだと思う。たしかに、労働集約型の事業においては、「人数を増やせば増やすほど利益につながる仕組みやルール」を作ることが大事になるだろう。一方、知識集約型の事業においては、これは必ずしも真ではないと思う。

言ってみればあたりまえのことだけれど、ルールや仕組みは、増えれば増えるほど労働は平準化されていく。労働集約型の事業においては、「ローパフォーマーを減らすこと」のほうが、「ハイパフォーマーにさらに高いパフォーマンスを発揮してもらうこと」よりも重要だ。だって数がたくさん必要なんだもん。そのため、ハイパフォーマーにとっては「枷」になってしまうようなルールや仕組みであっても、その仕組みを課すことでローパフォーマーでも一定のアウトプットが出ることが重要となる。つまり、労働集約型の事業にとっては「ルールや仕組みを整備すること」が事業をより大きくするためのアクセルとなる。

一方、知識集約型の事業にとっては、ハイパフォーマーが、事業にとって本質的ではないルールや仕組みに邪魔されずに、事業にとって本質的な仕事に集中してできることのほうがむしろアクセルとなり、仕事を平準化するためのルールはブレーキとなる。たとえば、オーケストラについて考える。労働集約的な考え方で、楽器の素人を10,000人集めても、ブラームス交響曲を演奏するオーケストラは編成できない。けれど、少数精鋭の各楽器の達人が、演奏への造詣が深くなればなるほど、そのオーケストラには価値が出ることになる。このとき、このオーケストラのメンバーに対して「この楽器を演奏したあとは、必ず以下の手順にそって楽器をメンテナンスをすること」というようなルールを課したところで、あまり意味がないどころか有害である。なぜなら、優秀な奏者であれば、楽器のコンディションを損なって結果として自分の演奏が損なわれるようなことはしないし、「どれくらい楽器に対してメンテナンスをしていれば最適な状態を保てるのか」を深く理解しているはずだからで、ルールで手順を定めるよりも個々人に最適なメンテナンスをしてもらったほうがいいからだ。

そんな感じで、知識集約型の事業にとっては、「ルール」「平準化」はブレーキとして働いてしまう。では知識集約型の事業にとって、アクセルとなるものはなにか。それはおそらく「文化」なのではないかと思う。そして、文化は行動が作る。もしも、「いい演奏がしたい」というのが口癖なのに、そのための練習の効率を上げるための工夫は全然しないし惰性で練習するような行動様式を持つオーケストラがあったら、そのような行動様式が、そのオーケストラの文化となるだろう。そして、他方に「いい演奏がしたい」なんて表立っては言わないけれど良い演奏のために練習の効率を上げるための工夫や行動をあたりまえのようにするような文化のオーケストラがあった場合、前者が提供できる演奏の質(つまり顧客にとっての価値)の向上のスピードは、後者よりもずっと遅いものになるだろう。これはルールや仕組みでどうにかできる問題ではない。

あるいは、自分たちのパートの演奏技術の向上だけにかまけて、合奏したときの音楽の良さ(それが顧客、つまり聴衆にとっての価値だ)にはコミットしないような行動が多いオーケストラは、それが文化となるだろう。他方に、自分たちのパートの演奏技術よりも合奏したときの音楽の良さにコミットするような文化を持ったオーケストラがいたとき、どちらのオーケストラの演奏が、より聴衆にとって価値があるだろうか。これもルールや仕組みでどうにかできる問題ではない。

そのようなことを考えると、やはり知識集約型の事業においては、「文化」こそがアクセルとして機能するように思う。そして、「ルール」や「仕組み」は多くの場合ブレーキとして機能しそうだ。

もちろん、ブレーキはとても大事だ。なんのために? 事故を起こさないために。つまり、「ここを外すと事故につながってしまう」ということを防ぐための仕組みとしては、知識集約型の事業にとっても、ルールや仕組みは価値がとても高い。

というようなことを考えると、知識集約型の事業でより高い成果を上げるためには、「プラス事象を積極的に作るためにはルールではなく文化を作る(そのための行動をガンガンやる)」「ルールや仕組みは、マイナス事象を避けるために使う」という考え方が一定有効なのではないか。

ということを考えましたよ。

これを昨日の記事と繋げて考えると、「文化がナレッジワーカーの集団にとってのアクセル。そして文化は行動が作る。労働において許容される行動は、成果が実際に出でる行動である。つまり、自分のやりたいような形で、成果を出す行動をすることで、自分にとって理想に近い文化をアクセルとして使えるようになっていく」ということになりそうだ。

言うんじゃなくてやる以外に方法がない

「顧客中心主義」という言葉を振りかざすひとは胡散臭く感じてしまうが、一方で重要な考え方であるとも思うアンビバレントがある

労働についての話。

労働をしていると、「どうしてうちの組織はこうなってないんだ」とイライラすることはだれにでもあると思う。というか、そういうイライラを失ってしまったとしたらそれはもう理想を失っているということで、改善の機会を失っている。理想と現実の間のままならなさにイライラしながらも顧客(その顧客は社内の別の部署かもしれないが、それが最終的にエンドユーザーに届くロジックは強固にたてついていないといけない)に対してなんらかの価値を提供して対価を得るのが労働だとさえ思う。

ところで、この理想を実現するためにはどうしたらいいのだろうか。理想を知ること、理想の状態を想像することは簡単だけど、このままならない現実を理想に近づけるためになにかを変えるというのはすごく大変だ。このギャップがひとを苦しめる。「こうあるべき」を言うだけなら誰にでもできることなので、それに価値はほとんどない。結局価値があるのは「一歩でも理想に近づく変化をもたらす行動」だけなんだけど、その変化をもたらす行動をできるかどうかは「どういう仕事をまかされるか」に依存するので、自分の意思だけではできず、そのための仕事を任されるしかない。そして仕事は「その仕事ができるであろうひと」に任される。だってそうしないと事業が止まるもん。と、ここで気づく。「任せられるひとに仕事を任せる」ってそれループしとるやんけ。

このループを断ち切って、「任される」に入るためには、結局のところ、「だれかがやるだろう」じゃなくて「自分の仕事じゃないけどそれをやることで事業のためになるから、やって結果を出す」という行動を続けるしかない。つまり、理想状態を作るためには、「今チームの目の前にある、事業上求められていること」に対して、いままで通りのやり方で結果を出すのではなくて、いままでを超えるやり方を探索しながら結果を出すしかない。いままで通りのやり方でやっても結果は出るかもしれないけれど、それはいままで通りなのだから変化にはならない。変化させるだけで事業上の結果を出さないのであれば、それは「無駄な変化」であり単なる迷惑行為である。だけど、やり方を変化させながら事業上の結果を出せば、「仕事の報酬は仕事」という感じでさらに仕事が任され、「変えることのできる範囲」が広くなっていく。

そう考えると、理想の状態を作っていくためには、「理想の状態を作るための仕事」をするのではなくて、「理想の状態に一歩だけ近づくようなやり方で、事業上の結果を出す」ということを繰り返していくしかないのだと思う。「理想の状態を作るための仕事」は「仕事のための仕事」で顧客のための仕事ではないから、どう頑張っても優先順位が下がっていく。労働だからしょうがないよね、労働は顧客に価値を提供しないといけないんだもん。「なんで理想の状態になってないんだよ」って愚痴を言うのはだれでもやる(ぼくもやってしまう)けれど、愚痴るだけではなくて、仕事を引き受けて、引き受けた以上のやり方をして実際に良い結果を出す。これは正直言ってかなり難しいことだと思う。ぼくも常にできているかって言ったらそんなことなくて多分三年に一回くらいしかそういうことができていない。けれど、結局言うんじゃなくてやる、以外に方法がないのだ、ということを理解したのでこれからもやるしかないのだと思う。しかししんどいわね。本当は寝て過ごしたい

「才」を「オ」と書いても問題ないが、「ツ」を「シ」と書いたら問題がある話は結構面白い問いだと思う

漢字テストが理不尽である、という話は定期的にインターネットを駆け巡る。最近も「才」を「オ」の形(これちゃんとわたしが意図したグリフで見えているかが環境依存なんだよな……)で書いたのが「間違い」扱いされた話が話題になっていた。

最初にわたしの立場を明らかにすると、わたしは「読める、なおかつ他の文字と混同されないような特徴があればそれは正答とすべきだろう」の立場であるけれど、この問題は一方で「算数の掛け算の順序問題」とはだいぶ違う種類の難しさを孕んだ問題であると思う。

というのは、掲題の通り、「才」を「オ」と書いても「同じ文字」とみなしても問題がないとされている(see 漢字のとめはねはらい等こまかな形状で正誤を決めてよい根拠はありませんファイナルアンサー2023リンク集 - なないち研 ) が、一方で、「ツ」と「シ」を同じ文字とみなしては(今のところ)問題が生じるという話があるからだ。あるいは「未」と「末」を分けるものはなにか、という話でもある。

これは、「シ」と「ツ」には、それぞれが排他的に理解されるという、ある種偶然で恣意的な線が引かれているが、一方「才」と「オ」にはそれが(今のところ)引かれていない、という話である。つまり、「シ」が「シ」として理解されるのは、それが「ツとは異なる特徴のある形をしているから」であって、「左上から右下に向かって比較的短い線が2本書かれていて、右上と左下を結ぶ、前述のふたつの"比較的短い線"より長い線が書かれている形をしているから」ではない(ためにしに「ツ」という文字が前述の特徴を満たすかどうか確かめてみらたいい)。

もちろん、当然、「才」と「オ」の件に関しては「カタカナと漢字で違うからだろ」という素朴な反論がありうる。けれど、じゃあもし「オ」という形の「才」と異なる漢字が仮に存在していたら、「オ」は「才」と了解されないだろう。これはそういう話だ。

ということを考えると、実は「漢字テストの採点基準」というのは、そもそも「形と漢字の対応関係」が恣意的である以上、本質的に恣意的な性質を帯びていると私は思っている(これは「今の厳しい基準が恣意的だ! 悪だ!」という話ではなく、その基準を緩めにするにしろ厳しめにするにしろ、どちらにせよそこには恣意性が入っている、という話だ)。だからこそ、現実的には「本質的に恣意的なので、"大枠の形が合っていて、別の字に読めるわけではないもの"は正答の側に倒すくらいのゆるい運用が望ましいだろう」という意見になるのだけれど、一方で、この問題は「そもそも文字とはなにか、われわれはどのような形で文字を文字として認識し、言語として扱っているのか」という話とか、記号と意味の結びつきの恣意性とか、言語ゲーム的な話とか、そういう言語そのものの謎あるいは性質にとって面白い問いになりうる問題なので、単に「国がこう言ってるからこうなんです〜」みたいな話で終わらせるともったいないと思う。

というか、そういう話があるからこそちゃんとした研究に基づいた文化庁の見解が「読めて他の文字と区別できればヨシ!(意訳)」となっており、一方現場では(無意識にでも)「そもそもそれが恣意的だから現場の運用で厳し目に倒すしかないんじゃい!」という「ハック」が必要となるんだよな、多分。

アマチュアバンドこそセルフレコーディングしようぜって話

2023年度を迎え、所属するバンドも新しい音源の制作としてレコーディングを開始しました。わたしの所属するバンドは、2度ほどいわゆる「エンジニア付きレコーディングスタジオ」でレコーディングをしたのですが、そのあとの音源制作は、基本的に私がエンジニアをしてDIYレコーディングを行っています。わたしがバンドでDIYレコーディングを始めたときは、まだ音楽のお仕事でお金をもらい始める前のできごとなので、まごうことなき「アマチュアによるDIYレコーディング」です(でした)。

さて、ところで、エンジニアさん付きのレコーディングプランの価格を調べてみたことがありますか? 調べるとみなさんびっくりされると思います。たとえばスタジオノアのレコーディングプランでは、スタジオ代に追加で ¥24,200- 支払えば、きちんとしたエンジニアさんが6時間もレコーディングを行ってくれます。高い? いえいえ、サウンドエンジニアはれっきとした専門職であることを考えると、破格のお値段だと言えるし、5人バンドだったら一回飲み会を我慢すれば十分に支払える金額ではないでしょうか?

それなのに、なぜ、わざわざ、絶対にプロエンジニアよりいい音で録れるはずがないのに、アマチュアDIYでセルフレコーディングなんかを始めたのか。それは、「いい音」と「好きな音」は違うからです。正直、ハウスエンジニアにおまかせすれば、「素早く、しかも良い音に」仕上がります(もとの演奏の音がよければね!)。なのですが、これが音楽の面白いところで、「良い悪い」と「好き嫌い」は独立した軸なんですよね。つまり、「一般的に良い音であると認識されるし、好きな音」「一般的に良い音だと認識されるけど好きじゃない音」「一般的には悪い音だと認識されるだろうけど好きな音」「一般的も悪い音だと認識されるし嫌いな音」がある。このとき、ハウスエンジニアさんに作業をおまかせして「一般的に良い音であると認識されるし、好きな音」を目指そうとすると、「好きな音」を言語化し、エンジニアさんにお伝えする必要があります。しかも限られた時間の中で!! これは実は相当に難しいことです。

さて、これがDIYの場合は? 当然経験が浅いうちは「良い音」を作るのが難しいのですが、試行錯誤して研究していけば確実に「いい音」を作れるようになっていきます。そして、自分(たち)でやるなら、自分(たち)の時間が許す限り、時間に追われずに「好きな音」をじっくり追求することができます。正直言って、最初のDIYレコーディングや、まだお金をいただいていない頃に友人、知り合いから(勉強半分で)請け負ったレコーディングの音源は「好きな音」にも「いい音」にもできませんでした。けど、回数と反省を重ねるうちに、「プロよりいい音じゃないけど、自分が好きな音」は作れるようになっていきました。バンドの2作目のDIYレコーディングなんかはプロのエンジニアが限られた時間でやった仕事よりも、「いい音ではないけれど自分の好きな音」に仕上がっています。いま録音しているDIYレコーディングの作品は、「ハウスエンジニアが限られた時間でやった仕事」とおなじくらい(というか時間かけられるので、それ以上に)いい音になっている自信がありますし、好きな音を狙って作れています。(余談ですが、わたしがお金をいただく仕事で時間ごとじゃなくて作品ごとでお金を頂いてるのも、「限られた短い時間内に及第点出す」という技術がまだ未熟だから、というのがある。逆に言うと時間をかけることでちゃんとクオリティは担保しているし、今はさまざまな実績がちゃんとある)

さて、わたしは今、サウンドエンジニアとしてはお金を頂くようになりました(それだけで食っていけるには程遠いっていうか機材代等考えると赤字ですが……)が、「バンドマン」としてはアマチュアです。アマチュアってことは、「売れなくていい」ってことです(!)。クライアントからお金を頂いて、クライアントの満足ではなく自己満足のための仕事をするのはタコのやることですが、アマチュアのいいところは「自己満足でいいこと」なんですよね。そうなってくると、プロのミュージシャンだったら「悪いけど好きな音」と「良いけど嫌いな音」を比べたときに後者を取るべきだと言えるけど、アマチュアの場合、「いい音」よりも「好きな音」を優先して良いんです!

そうなってくると、これはもう「アマチュアこそ、セルフでDIYレコーディングをしよう」という話になってきませんかね。そういう動機で、わたしはDIYレコーディングを始めました。やってみたら、リスナーとしての耳も育ったり(楽器を弾けるようになると、いままでわからなかったような音楽が楽しく聴けるようになったりしません? それと同じことが起こる)、「ここまでできるようになったらお金もらっても許されるのでは……?」からの音楽仕事でのリピーター様獲得、自分の手がけた作品がSpotify公式プレイリスト入りなど、さまざまな良いことが起こったりもしたので、なんにせよ「録音物作り」に興味があるアマチュアバンドマンにとっては、セルフレコーディング、おすすめです。

「一緒にレコーディングに入って、やり方教えてくれない?」みたいな話も全然請け負うので、もしよかったらご相談くださいね!(最後宣伝になってしまった)

フジゲン製テレキャスモデルにトーンカットスイッチをつけた

フジゲン製のテレキャスモデルを持っていて、メインギターというわけではないけど、メインの次くらいに編曲仕事で使っている。このギターはアッシュボディにメイプル指板、見た目もブラックガードを意識したスペックになっている。現代のテレキャスというと「ギャリン!」という音のイメージが強いが、よく「古いテレキャスは音が太い」なんて言われたりもする。このテレキャスは多分その「太い音がするテレキャス」を意識して作られていて、かなり低域もしっかりと鳴ってくれるし「ギャリン」というよりも「ズドパリン」としたサウンドになっていて、古いソウルを好む私にとってはベストマッチなテレキャスで気に入っている。

一方、編曲仕事ではいわゆる「邦ロックサウンド」が求められることもあり、AC30系のアンプで「ギャリーン」と金属的で攻撃的な音を鳴らす必要に迫られることもある。また、わたし自身たまにそういう音が欲しくなることもある。いままでは録音後にEQで3khzくらいをブースト、400中心にそっから下くらいのローミッドを適度にカットしてやることでなんとかそういう感じの音を作ってきたのだけれど、アンプをマイキングするようになってからはとくに、EQのブーストによってリアルな空気感が損なわれることが気になってきた(ローをカットするのはあんまり影響ないんだよな)。

じゃあ現代的なテレキャスを一本買いますかね、つってテレキャスをポンと一本買えるなら苦労はしないし、最近エフェクター自作に入門した結果回路をいじることに対してもハードルが下がってきていることもあり、「トーン回路のバイパスしてみますか」という感じで、トーンポットをプッシュプルに交換、プル時にはトーン回路をバイパスするように改造してみた。

エレキギターのトーンは、可変抵抗とコンデンサを使ってローパスフィルタを形成し、抵抗値の変化によってグラウンドに捨てられる高域の量を調整するような回路になっている。このとき、トーンポットをフルテンにしていても、微量の電流はコンデンサ側に流れて、微量のハイカットが行われている。これはべつに不具合ではなくて、それ含めてサウンドデザインとなっていて、シングルコイルはジャキジャキしすぎるからちょっとハイがたくさんカットされる容量をつけといて、「トーン10でも耳にいたくないサウンドにしよう」みたいなことが考えられていいる。

で、このトーン回路をバイパスしてやると、「トーン10よりもさらに明るい音」が得られるわけだ。一番簡単な改造は、常にトーン回路をバイパスするように配線しなおすことだ(多くの場合コンデンサの足をぱちっぱちっとカットしてやればいいが、たまにそれだけだと音がでなくなっちゃう配線になってるものもあるので要注意。ちゃんと自分のギターの配線確かめてからやろう)。とはいえ、ぼくはトーン回路通ったサウンドも気に入っていて、トーン回路通ったサウンドもトーンカットも両方ほしいわけで、この方式は使えない。そこでトーンポットをプッシュプルスイッチ付きのポットに変更して、プッシュ状態のときはトーン回路を通るように、プル状態のときはバイパスするようにと配線をしなおした。ついでにコンデンサもいわゆるオレンジドロップに変更してみた。

正直コンデンサの違いはおまじないレベルだと思う。容量が変わればそりゃ音は明らかにかわるんだけど、容量同じでコンデンサの種類変えてみたところでそこまで音に違いは……。まあこれはわたしの耳が悪いだけかもしれない。一方、トーンカットには明らかに違いが出る。回路が変わってるんだからあたりまえなんだけど。少なくとも狙った方向性の違いはしっかり出ている。

EQを挿して、トーンカットなしのフルテンのとトーンカットありをくらべてみると、以下のようになっており、狙った周波数がきちんと出てきてくれていることがわかる。トーンカットなしのフルテンでは2kHzあたりではすでに減衰が始まっているが、トーンカットしたほうは3kHzくらいまでは減衰が始まらない。

トーンカットなしのトーンフルテン。2kHzあたりではすでに減衰が始まっている
トーンカットなしのトーンフルテン。2kHzあたりではすでに減衰が始まっている

トーンカット。3kHzあたりまで減衰が始まらない
トーンカット。3kHzあたりまで減衰が始まらない

こうして、トーンカットを切り替えることで「ギャリン」も「ズドパリン」も手に入るようになった。ポットとコンデンサ合わせても2000円かかっておらず、お得だったのではないでしょうか。

最強のギター宅録環境 ver. 2023 1月

編曲やレコーディングを真剣にやり始めて、他人様に提供するようになってから随分と経つ。その中で、自分にとってはエレキギターの録音が最も難しい課題のひとつとしてずっと立ちはだかっていた。もうずっといろんな手段を試してみたけど、最近ようやく満足に片足突っ込んだ音を録ることができるようになってきたので、それについて書く。なお、スタンスとして「高い機材買いまくればそりゃいい音で取れるけど、そうじゃなくて創意工夫で現実的な範囲で最高の音を録りたいんじゃ」というスタンスです。

最初に結論

  • 及第点出すならstrymon IRIDIUM買っとけば間違いない
  • マイク録りするなら覚悟が必要。そこは底無し沼だ、気をつけろ。自宅でやるなら以下の戦略を取ろう
    • 音量が小さくてもいい音が出せるセッティングを突き詰める
    • マイキングがかんたんなセッティングを突き詰める
  • 「手軽に安価でシミュレーターよりいい音」を出せるリグは以下の通り
    • アンプヘッド:MV50-CL
    • キャビネット:クローズドバックの1x12inch
    • お好きな歪みやプリアンプペダル:おすすめはValvenergyシリーズ
    • マイク:beta57a

strymon IRIDIUM買っておけば間違いない

strymon IRIDIUM(サウンドハウス)

これ。とにかくこれ買えば間違いない。買う、挿す、録るで及第点の音が出るバケモン。

VSTプラグインのいいところだめなところ

VSTプラグインとして機能するアンプシュミレーターにもいいものが結構あるのだけれど、それでもやっぱりクリーン〜クランチはどうしてものっぺりとしがちだと思う。あと、どうしてもピッキングに対してちょっと反応が悪いな、というものが多いですよね。そういうシミュレータは「ピッキングが悪くてもそれなりの音が出る」という意味では良いんだけど、じゃあ最後にミックスしてみたときに、どうしても存在感が薄くなりがち。シンセサウンドの楽曲にギターを足したいみたいなときはむしろその「のっぺりさ」が良かったりするし、集中して音源作ってるときは「意外といいじゃん」って思ったりもするんだけど、いざプロの音源を聞いたあと俯瞰の耳で自分の音を聞くと「あれ〜〜〜??? プロの音は"そこでアンプがちゃんとなってる立体感、空気感"があるのに、自分の音はなんか立体感がぜんぜんない!」となりがち。セッティングを突き詰めるとVSTプラギンでも立体感が出たりするのかもしれないが、正直セッティング詰めるの難しすぎる。

IRIDIUMが問題を解決してくれる

VSTプラギン系は「ニュアンスの出にくさ、立体感」に課題があった。

で、いろいろ研究した結果、ニュアンスのでやすさについては「アンプシミュレーションの部分の質」が支配的であり、"そこでアンプがちゃんとなってる感じの立体感、空気感"を作るのに支配的な要素はどうやらキャビシミュ、あるいはIR(インパルスレスポンス)なのだ、ということがわかってきた。つまり、アンプシミュレーション部分で演奏のニュアンスをしっかり出して、IR部分で立体感を出そう、という話になる。

Kemperの良いrigなどについては、この「アンプシミュレーションの部分」が頭抜けている印象で、正直そこに関してはIRIDIUMではかなわないかな、と思う。しかし、IRIDIUMについてはIRの部分がマジでよくできすぎていて、「あんまり設定突き詰めずにパッとさしてシュッと録る」だけでリアルアンプの音が耳元でする。すごい。しかもIRIDIUMのアンシミュ部分がダメなのかっていうと全然ダメじゃなくてこれもう好みのレベルでしょ、っていうくらい良い。

で、そうなると「じゃあべつにIRIDIUMじゃなくてよくて、いいIRデータ買って任意のローダーにつっこめばいいじゃん」という話になりそうなもんだけど、そうでもない。というのは、同じIRデータでも、IRローダーによって全然音が異なる。IRIDIUMはIRローダーとしてもめちゃめちゃ質が高くて、正直いって化け物じみている。また、roomノブで「空気感をどれだけ含めるか」というのが調整できて、「空気感、立体感」のリアルさで言うとIRIDIUMがまじで最強。

わたしは趣味としてさまざまなひとが録音したものを聴き比べていて、Kemperで録音されたもの、strymonで録音されたものをそれぞれいろいろ聞いたが、「デフォルト状態で、挿して録ったらもう"ちゃんとアンプがなってる音がする"」という点においてはKemperを大きく突き放してIRIDIUMが優れていると感じた。そして、実際に自分で使ってみても、「いままでVSTプラギンですごく一生懸命音作りしてたのなんだったんだ」って思うくらいにリアルなアンプサウンドが録れるし、お値段もKemperと比べたら全然お安いので(まあKemperほどの機能がないので、単純に比べるものではないのはそれはそう)、とりあえずギター宅録で及第点出すならIRIDIUM使っておけば間違いない。

IRIDIUMで満足できない場合はマイク録りに……しかしマイク録りには覚悟が必要

じゃあIRIDIUMでいいじゃん、となりそうなんだけれど、実はIRIDIUMにも苦手なところはある。それが「どクリーンの音色」だと思っていて、ちょっとサチュレーションがかかってきたり、クリーンよりのクランチくらいだと気にならなかった「ラインっぽさ」が、どクリーンだとまだ、少しだけ残っているのだ。ギター単体で聴くとそうでもないんだけど、オケに混ぜていくにつれて「あれ? プロの音と立体感、リアル感が違う」となっていく。そこでようやく「ついに……マイク録りか?」という話になる。結局IRは「スピーカーが空気を震わせてそれをマイクがひろったときにどうなるか」をシミュレーションしているわけで、それが追いつかない以上、「本当にスピーカーで空気を震わせてマイクで拾うしかない」という話になる。

しかし、マイク録りにはさまざまな問題がつきまとう。

  • リアルアンプが必要(高い……)
  • リアルキャビネットも必要(高い……)
  • 騒音問題(でかい音でアンプ鳴らさないといい音でないんでしょ?)
  • マイキングむずかしい問題(なんかアンビエントとか……オンマイクとかオフマイクとか……位相とか……オフアクシスとか……)

とくに問題になるのは騒音問題で、「外に出る音は小さい音で」というのは最優先というか「前提事項」となるはずだ。そうなってくると、その前提をもとにどうやっていい音で録るか、ということを考えることになる。

小さい音でいい音の鳴るアンプヘッドを使う

当然のことながら、家で twin reverb みたいなくそでか出力アンプをそのまま鳴らすわけにはいかない。そのまま鳴らせる環境があるひとはそれもうプライベートスタジオがあるようなもんで、ちまちま宅録用システム組むのなんかやめてとっとと最高の環境で録れという話になる。一方、じゃあ小さい音の出るアンプ、となると、だいたいがトランジスタのわけわからんカッチカチの音が出るような練習アンプがほとんどである。そうなってくると、実際の選択肢は実はそんなに多くない。

チューブアンプならば、5Wとか、せめて7Wくらいの出力のフルチューブアンプが限界だろう。たぶん7Wでもかなり住環境を選ぶと思う。5Wくらいの出力のアンプ、さいきんはそれなりに存在していて、blackstarとかLaneyのアンプは結構良さそうだった。音が好きならそれらを選ぶのもありだと思う。あるいは、自分の好きなアンプを買って、アッテネーターを利用して出力を下げるという方法もある。ただどちらにしても、コストがそれなりにかかってきてしまう問題はある。後述するが、自宅録音にオープンバックのキャビはハードルが高いので、オープンバックになってることが多いコンボアンプではなくてヘッド+クローズドバックのキャビ、というセットがおすすめになるが、そうなってくるとだいぶお金が……。まあライブでもリハでも使える、ということを考えたら安い、と思うこともできなくはなさそうではある。アッテネーターについてはUniversal AudioのOXがデファクトスタンダードとなっているが、まあ高いですよね……。また、歪みをアンプで作る場合、「そのアンプのキャラクターの歪みしか録音できない」という問題は起こる。べつのタイプの歪みを録音するためにまたヘッドを買って……ということができるのであればよいが……。好きなアンプヘッドとOX買えるなら素直に買っとけばそこでゴールだと思うのでそれでいいです。ぼくは無理です。

ではモデリング系のデジタルアンプはどうか。正直あまりおすすめしない。実は小規模なライブで使うには一台でいろんな音だせて便利だったりするんだけど、レコーディングのような「繊細なタッチまで拾いたい」みたいな用途にはやっぱりあまり向かないと思っている。例外としてFenderのtonemasterシリーズはかなり良さそうであった。まあでも物理的にでかいよねって話はある。この分野は日進月歩なのでそのうち真空管アンプはいらなくなるかもしれない。はやくその日が来て欲しい。

で、じゃあなにがおすすめかというと、Nutube搭載のVOXのMV50-CLと任意のプリアンプペダル(や歪みペダル)の組み合わせだ。MV50シリーズはどのアンプも素晴らしい音がするが、このMV50-CLは、真空管らしいニュアンスやコンプレッション感がしっかりありながらも、bassとtrebleを12時にするとかなりフラットな出音が出てくる。ギターの特性やピッキングニュアンスもかなり素直に出力される。また、MV50シリーズの中で唯一EQがtoneツマミでははくtreble/bassの2バンドとなっている。また、MV50の他のシリーズも歪みのキャラクターはかなりいいんだけど、どうしても「プリアンプ感」があって、「パワー管が真空管で駆動されている感じ」がしない。CLはMV50シリーズの中で一番パワー管まで真空管のアンプっぽい音が出てくる(実際はパワーアンプ真空管じゃないんだけど)。その特徴を活かして、これを「音量を落としてもいい音がちゃんと出る真空管パワーアンプ」として扱う。

MV50シリーズにはsend/returnがついていないことがよく弱点として挙げられるが、MV50-CLを真空管パワーアンプ扱いした上で、前段のプリアンプペダルや歪みペダルで好みのキャラクターをつけると良い。で、そのペダルの後段に空間系ペダルを入れてしまえば、「プリアンプでキャラ付け => send => 空間系 => return => パワーアンプで増幅」といういつもの考え方で音作りができる。本物の真空管アンプの歪みがほしいならNutube搭載のペダルを使えばかなりいいところまで行く。しかも、別のキャラクターの歪みや別のキャラクターのクリーンサウンドが欲しくなったら、ペダルだけ買い足せば良い。宅録環境としてはかなりおすすめできる考え方だ。valvenergy全シリーズ欲しい。

キャビネットにはクローズドバックの12インチ一発を使う。マイクは一本。多くてもオンマイク2本。

で、ようやくキャビとマイクの話。自宅録音で、アンビエントを録るのはおすすめしない。だって自室はいいアンビエントがあるスタジオじゃないんだから。そもそもアンビエントの環境がよくないのにいいアンビエント録るのは不可能。プラグインで高品質なリバーブをあとからかけて、アンビエントの代わりとしましょう。というわけで、宅録では立てるマイクはオンマイクだけがよい。で、そもそもマイク1本で拾えるのはスピーカーひとつだし、スピーカーは一発でよい。でかいし。

じゃあ何インチのスピーカーにすべきかっていうと、やはり12インチが置けるなら12インチを使うべきだろう。8インチのスピーカーも使ってみたことがあるが、ローは工夫次第でいい感じにできるんだけど、小さいスピーカーだとどうしても歪ませたときに音がへんにシャリシャリしてしまう。具体的に言うと8khzあたりが変なふうに再生される感じがする。それを狙っているのでない限り、ちょっとおすすめできない。EQであとから8khzあたり削ると少しマシになるので、どうしても部屋に8インチくらいまでしかおけない、というひとはそういう手段でトリートメントしてもいいかもしれない。しかしそういう場合は素直にIRIDIUM使った方が幸せになりそう。

そして、重要なポイントとして、オンマイクで録ることを前提に考えるのであれば、キャビはクローズドバックにするべきだと思う。オープンバックのキャビネットは、エアーで聴いているとすごくいい音なんだけど、それはフロントから出ている音とバックから出ている音がエアーでミックスされていい音に聞こえているわけで、この「耳に聞こえているいい音」をオンマイクのみで集音するのは不可能だと思った方がよい。「部屋鳴りは録らない。オンマイクのみ」の方針でいくなら、ぜったいにクローズドバックがおすすめである。実際ぼくは1ヶ月くらいずっとオープンバックのキャビで録音しては「どうしても耳で聴いているような音で集音できない」と悩んでいたが、このことに気づいてクローズドバックに変えたら「耳で聞いてる音にかぎりなく近い音」が簡単に集音できて拍子抜けした。

多分この自宅録音システムで一番金がかかるポイントがキャビだと思う。が、自作できるならばそうすると安く上がるという話はある。ぼくは友人が作ってくれた自作キャビを使っている。このキャビはオープンバックだったので、寸法を測ってホームセンターで木材を買って自分でクローズドバック化した。音をDIYしていけ。

マイクは何を使えばいい? どうセッティングすればいい?

定番はSM57で、実際いい音だと思う。ただ、これはわたしの趣味の話なんだけど、ちょっと高域がキツく、低域の解像度が低く感じてしまう。SM57を使うのであれば、もう一本コンデンサマイクなどを同時にたててミックスしてやりたくなる。一本のマイクで集音することを考えるなら、わたしのおすすめはbeta 57Aを使うことで、SM57のいいところを残しつつ、高域は少し滑らかに、低域も(コンデンサマイクほどではないが)解像度高く録音することができる。しかもお値段もお安い。推しです。SM7Bも結構良さそうだとおもった。ただ、どのマイクを使うかっていうのはこれはもう好みの問題で、普通にプロの現場で使われているようなマイクならなんでも好きなものを使うと良いと思う。Youtubeとかで比較動画とか結構上がっているのでそれを見て研究するのも楽しい。

マイクのセッティングについてはいろんなことを言う人がいるけど、ぼくがめちゃめちゃ参考にしたのはこの動画シリーズ。

www.youtube.com

ノイマンホームスタジオアカデミーはめちゃめちゃ勉強になるのでおすすめです。いろいろ実験してうまくなるしかない。

まとめと結論

  • 2023年1月時点でわたしが暫定的に出した「IRIDIUMで満足できない体になってしまったひと向けのコスパ最強の自宅ギター録音環境」について書いた
  • MV50-CLを真空管パワーアンプ扱いして、前段で好きなキャラクターをペダルで作ってその間をsend/return扱いする
    • これで「小音量でも真空管のいい音」が手に入る
  • キャビは12インチ1発、クローズドバックにする
    • これで自宅でもいい音でマイキングすることができる
  • マイクは好きなやつでいいと思う。マイキングは練習あるのみ。

strymon IRIDIUM使おう!!!!!!!! それで満足できるのが一番幸せ!!!! 沼に近づいてはいけない!!!!!

これ以上の音が欲しいならもう宅録はやめてスタジオ録音ですね。のお気持ちです。

ライブの際にBPMを視覚的に教えてくれる便利なやつ作った

自分のバンドで使いたいから作った。

ニーズ

  • ライブをやるときに、セットリストが足元にあると便利。
  • BPMも同時にわかると便利
    • 便利なんだけど、ふつうBPM:88ですって言われてもそれがどれくらいの速さなのかはパッとわからない
    • 楽譜アプリとかで、視覚的にBPMがわかる(丸が点滅してくれる)やつもあるんだけど、ライブしてる途中にスマートフォンとかタブレットとかいじってるところあんま見られたくない
    • できればペダルボードの横とかに放置しておくだけで全曲のBPMを視覚的に教えてほしい。

機能

  • ライブでやる曲のリストをformタブから入力できる
  • prompterタブではそのリストが表示され、「signal」というカラムでその曲のbpmに合わせて「●」が点滅してくれる
  • share linkをコピーすると、アプリをインストールせずにバンドメンバーに展開可能
    • その際入力しておいたセットリストとbpmはURLから復元されるので便利
    • ブックマークしておけば設定を保存できるということでもある

問題点

  • share linkやインストール不要などのメリットを取ったせいで、スマホとかが自動スリープすることを防ぐことができない。ライブのときはスマホタブレット自体の設定で自動スリープを防いでほしい。あと電波がないとロードできない(電波があるところでロードしたあとは電波なくても動き続けるから実用上そんなに問題にならないはず)。

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BpmPrompter