奥田民生『たばこのみ』のコード進行が不思議

奥田民生の名曲のひとつに『たばこのみ』という曲がある。サイケな音像のギターがリズムを立てて、まるまるとした音質のベースが縦横無尽に駆け回り、たぶんメロトロンかな? 鍵盤がちょっとドリーミーな雰囲気を与えて、ドラムのフィルインはちょっとリンゴ・スターっぽい訛りかたをしている、中期ビートルズに多大なリスペクトを払ったであろう楽曲だ。

www.youtube.com

しかしこの曲、コード進行もなんだか変だ。ジョン・レノンもこういう変なコード進行をよくするけれど、それにしてもどう解釈すればいいんだろう?

楽曲はGで始まる。最初はなんてことはない、普通にキー:Gメジャーの楽曲として解釈してまったく問題ない感じで始まるのだけれど、歌い出しの「だれがなんと言おうとたばこを愛している」の最後の「る」でいきなりm3rdの音がでてきて、コードもGmになる。いきなりIm? という感じだ。つづいて「それはもうナイスな」でコードはCにいく。キー:Gメジャーとしてとらえたらこれはそんなに変ではない。そこから一瞬コードはCmに。これもGメジャーで捉えたらサブドミナントマイナーなのでおかしくない。が、次にF7 -> B♭と進むので、やはりこれをGメジャーとしてとらえるのはちょっと無理があるだろう。

ところで、この Cm -> F7 -> B♭ はよくみるとキー:B♭におけるIIm -> V -> I となっている。メロディもここで解決するような動きをしているので、キーB♭としてとらえてみるとどうだろうか? GはVIのメジャー、Cはドッペルドミナントであると解釈することができる。こっちのほうが自然だと思う。しかし当然VIメジャーはダイアトニックコードではなくて、「曲のド頭にノンダイアトニックコード、しかも3rdをメジャーにしたもの」を持ってくるのはかなり大胆な発想がないとできない気がする。

また、曲の最後は「G7 C7」の繰り返しになっていて、これをキー:B♭で解釈するのもかなり厳しいものがある気がする。

そう考えると、この曲はたぶん「キー:G」で始まって、そのあといきなり突拍子もなく「同主調であるGm、あるいはその平行調であるB♭に転調している」と捉えるのが自然なんじゃないだろうか。出てくるコードはだいたいキー:Gとして捉えるかキー:B♭として捉えると違和感なく解釈できるようになっているんだけど、そう捉えると今度は「同主調(とその平行調)をフラフラといったりきたりしている」という感じになって、この「落ち着きどころがよくわからない感じ」がこの曲の独特の雰囲気に一役かっている、という感じだろうか。この、同主調をふらふらといったりきたりしていると捉えられるようなコード進行はジョン・レノンもよくやる気がする。そのあたりもやはり中期ビートルズリスペクトなんだろうな。

正直かなり不思議なコード進行で、ほんとうにこういう解釈の仕方でいいのかな? という感じはしている。識者がなんかいい解説してくれないかな。