「才」を「オ」と書いても問題ないが、「ツ」を「シ」と書いたら問題がある話は結構面白い問いだと思う

漢字テストが理不尽である、という話は定期的にインターネットを駆け巡る。最近も「才」を「オ」の形(これちゃんとわたしが意図したグリフで見えているかが環境依存なんだよな……)で書いたのが「間違い」扱いされた話が話題になっていた。

最初にわたしの立場を明らかにすると、わたしは「読める、なおかつ他の文字と混同されないような特徴があればそれは正答とすべきだろう」の立場であるけれど、この問題は一方で「算数の掛け算の順序問題」とはだいぶ違う種類の難しさを孕んだ問題であると思う。

というのは、掲題の通り、「才」を「オ」と書いても「同じ文字」とみなしても問題がないとされている(see 漢字のとめはねはらい等こまかな形状で正誤を決めてよい根拠はありませんファイナルアンサー2023リンク集 - なないち研 ) が、一方で、「ツ」と「シ」を同じ文字とみなしては(今のところ)問題が生じるという話があるからだ。あるいは「未」と「末」を分けるものはなにか、という話でもある。

これは、「シ」と「ツ」には、それぞれが排他的に理解されるという、ある種偶然で恣意的な線が引かれているが、一方「才」と「オ」にはそれが(今のところ)引かれていない、という話である。つまり、「シ」が「シ」として理解されるのは、それが「ツとは異なる特徴のある形をしているから」であって、「左上から右下に向かって比較的短い線が2本書かれていて、右上と左下を結ぶ、前述のふたつの"比較的短い線"より長い線が書かれている形をしているから」ではない(ためにしに「ツ」という文字が前述の特徴を満たすかどうか確かめてみらたいい)。

もちろん、当然、「才」と「オ」の件に関しては「カタカナと漢字で違うからだろ」という素朴な反論がありうる。けれど、じゃあもし「オ」という形の「才」と異なる漢字が仮に存在していたら、「オ」は「才」と了解されないだろう。これはそういう話だ。

ということを考えると、実は「漢字テストの採点基準」というのは、そもそも「形と漢字の対応関係」が恣意的である以上、本質的に恣意的な性質を帯びていると私は思っている(これは「今の厳しい基準が恣意的だ! 悪だ!」という話ではなく、その基準を緩めにするにしろ厳しめにするにしろ、どちらにせよそこには恣意性が入っている、という話だ)。だからこそ、現実的には「本質的に恣意的なので、"大枠の形が合っていて、別の字に読めるわけではないもの"は正答の側に倒すくらいのゆるい運用が望ましいだろう」という意見になるのだけれど、一方で、この問題は「そもそも文字とはなにか、われわれはどのような形で文字を文字として認識し、言語として扱っているのか」という話とか、記号と意味の結びつきの恣意性とか、言語ゲーム的な話とか、そういう言語そのものの謎あるいは性質にとって面白い問いになりうる問題なので、単に「国がこう言ってるからこうなんです〜」みたいな話で終わらせるともったいないと思う。

というか、そういう話があるからこそちゃんとした研究に基づいた文化庁の見解が「読めて他の文字と区別できればヨシ!(意訳)」となっており、一方現場では(無意識にでも)「そもそもそれが恣意的だから現場の運用で厳し目に倒すしかないんじゃい!」という「ハック」が必要となるんだよな、多分。

アマチュアバンドこそセルフレコーディングしようぜって話

2023年度を迎え、所属するバンドも新しい音源の制作としてレコーディングを開始しました。わたしの所属するバンドは、2度ほどいわゆる「エンジニア付きレコーディングスタジオ」でレコーディングをしたのですが、そのあとの音源制作は、基本的に私がエンジニアをしてDIYレコーディングを行っています。わたしがバンドでDIYレコーディングを始めたときは、まだ音楽のお仕事でお金をもらい始める前のできごとなので、まごうことなき「アマチュアによるDIYレコーディング」です(でした)。

さて、ところで、エンジニアさん付きのレコーディングプランの価格を調べてみたことがありますか? 調べるとみなさんびっくりされると思います。たとえばスタジオノアのレコーディングプランでは、スタジオ代に追加で ¥24,200- 支払えば、きちんとしたエンジニアさんが6時間もレコーディングを行ってくれます。高い? いえいえ、サウンドエンジニアはれっきとした専門職であることを考えると、破格のお値段だと言えるし、5人バンドだったら一回飲み会を我慢すれば十分に支払える金額ではないでしょうか?

それなのに、なぜ、わざわざ、絶対にプロエンジニアよりいい音で録れるはずがないのに、アマチュアDIYでセルフレコーディングなんかを始めたのか。それは、「いい音」と「好きな音」は違うからです。正直、ハウスエンジニアにおまかせすれば、「素早く、しかも良い音に」仕上がります(もとの演奏の音がよければね!)。なのですが、これが音楽の面白いところで、「良い悪い」と「好き嫌い」は独立した軸なんですよね。つまり、「一般的に良い音であると認識されるし、好きな音」「一般的に良い音だと認識されるけど好きじゃない音」「一般的には悪い音だと認識されるだろうけど好きな音」「一般的も悪い音だと認識されるし嫌いな音」がある。このとき、ハウスエンジニアさんに作業をおまかせして「一般的に良い音であると認識されるし、好きな音」を目指そうとすると、「好きな音」を言語化し、エンジニアさんにお伝えする必要があります。しかも限られた時間の中で!! これは実は相当に難しいことです。

さて、これがDIYの場合は? 当然経験が浅いうちは「良い音」を作るのが難しいのですが、試行錯誤して研究していけば確実に「いい音」を作れるようになっていきます。そして、自分(たち)でやるなら、自分(たち)の時間が許す限り、時間に追われずに「好きな音」をじっくり追求することができます。正直言って、最初のDIYレコーディングや、まだお金をいただいていない頃に友人、知り合いから(勉強半分で)請け負ったレコーディングの音源は「好きな音」にも「いい音」にもできませんでした。けど、回数と反省を重ねるうちに、「プロよりいい音じゃないけど、自分が好きな音」は作れるようになっていきました。バンドの2作目のDIYレコーディングなんかはプロのエンジニアが限られた時間でやった仕事よりも、「いい音ではないけれど自分の好きな音」に仕上がっています。いま録音しているDIYレコーディングの作品は、「ハウスエンジニアが限られた時間でやった仕事」とおなじくらい(というか時間かけられるので、それ以上に)いい音になっている自信がありますし、好きな音を狙って作れています。(余談ですが、わたしがお金をいただく仕事で時間ごとじゃなくて作品ごとでお金を頂いてるのも、「限られた短い時間内に及第点出す」という技術がまだ未熟だから、というのがある。逆に言うと時間をかけることでちゃんとクオリティは担保しているし、今はさまざまな実績がちゃんとある)

さて、わたしは今、サウンドエンジニアとしてはお金を頂くようになりました(それだけで食っていけるには程遠いっていうか機材代等考えると赤字ですが……)が、「バンドマン」としてはアマチュアです。アマチュアってことは、「売れなくていい」ってことです(!)。クライアントからお金を頂いて、クライアントの満足ではなく自己満足のための仕事をするのはタコのやることですが、アマチュアのいいところは「自己満足でいいこと」なんですよね。そうなってくると、プロのミュージシャンだったら「悪いけど好きな音」と「良いけど嫌いな音」を比べたときに後者を取るべきだと言えるけど、アマチュアの場合、「いい音」よりも「好きな音」を優先して良いんです!

そうなってくると、これはもう「アマチュアこそ、セルフでDIYレコーディングをしよう」という話になってきませんかね。そういう動機で、わたしはDIYレコーディングを始めました。やってみたら、リスナーとしての耳も育ったり(楽器を弾けるようになると、いままでわからなかったような音楽が楽しく聴けるようになったりしません? それと同じことが起こる)、「ここまでできるようになったらお金もらっても許されるのでは……?」からの音楽仕事でのリピーター様獲得、自分の手がけた作品がSpotify公式プレイリスト入りなど、さまざまな良いことが起こったりもしたので、なんにせよ「録音物作り」に興味があるアマチュアバンドマンにとっては、セルフレコーディング、おすすめです。

「一緒にレコーディングに入って、やり方教えてくれない?」みたいな話も全然請け負うので、もしよかったらご相談くださいね!(最後宣伝になってしまった)

フジゲン製テレキャスモデルにトーンカットスイッチをつけた

フジゲン製のテレキャスモデルを持っていて、メインギターというわけではないけど、メインの次くらいに編曲仕事で使っている。このギターはアッシュボディにメイプル指板、見た目もブラックガードを意識したスペックになっている。現代のテレキャスというと「ギャリン!」という音のイメージが強いが、よく「古いテレキャスは音が太い」なんて言われたりもする。このテレキャスは多分その「太い音がするテレキャス」を意識して作られていて、かなり低域もしっかりと鳴ってくれるし「ギャリン」というよりも「ズドパリン」としたサウンドになっていて、古いソウルを好む私にとってはベストマッチなテレキャスで気に入っている。

一方、編曲仕事ではいわゆる「邦ロックサウンド」が求められることもあり、AC30系のアンプで「ギャリーン」と金属的で攻撃的な音を鳴らす必要に迫られることもある。また、わたし自身たまにそういう音が欲しくなることもある。いままでは録音後にEQで3khzくらいをブースト、400中心にそっから下くらいのローミッドを適度にカットしてやることでなんとかそういう感じの音を作ってきたのだけれど、アンプをマイキングするようになってからはとくに、EQのブーストによってリアルな空気感が損なわれることが気になってきた(ローをカットするのはあんまり影響ないんだよな)。

じゃあ現代的なテレキャスを一本買いますかね、つってテレキャスをポンと一本買えるなら苦労はしないし、最近エフェクター自作に入門した結果回路をいじることに対してもハードルが下がってきていることもあり、「トーン回路のバイパスしてみますか」という感じで、トーンポットをプッシュプルに交換、プル時にはトーン回路をバイパスするように改造してみた。

エレキギターのトーンは、可変抵抗とコンデンサを使ってローパスフィルタを形成し、抵抗値の変化によってグラウンドに捨てられる高域の量を調整するような回路になっている。このとき、トーンポットをフルテンにしていても、微量の電流はコンデンサ側に流れて、微量のハイカットが行われている。これはべつに不具合ではなくて、それ含めてサウンドデザインとなっていて、シングルコイルはジャキジャキしすぎるからちょっとハイがたくさんカットされる容量をつけといて、「トーン10でも耳にいたくないサウンドにしよう」みたいなことが考えられていいる。

で、このトーン回路をバイパスしてやると、「トーン10よりもさらに明るい音」が得られるわけだ。一番簡単な改造は、常にトーン回路をバイパスするように配線しなおすことだ(多くの場合コンデンサの足をぱちっぱちっとカットしてやればいいが、たまにそれだけだと音がでなくなっちゃう配線になってるものもあるので要注意。ちゃんと自分のギターの配線確かめてからやろう)。とはいえ、ぼくはトーン回路通ったサウンドも気に入っていて、トーン回路通ったサウンドもトーンカットも両方ほしいわけで、この方式は使えない。そこでトーンポットをプッシュプルスイッチ付きのポットに変更して、プッシュ状態のときはトーン回路を通るように、プル状態のときはバイパスするようにと配線をしなおした。ついでにコンデンサもいわゆるオレンジドロップに変更してみた。

正直コンデンサの違いはおまじないレベルだと思う。容量が変わればそりゃ音は明らかにかわるんだけど、容量同じでコンデンサの種類変えてみたところでそこまで音に違いは……。まあこれはわたしの耳が悪いだけかもしれない。一方、トーンカットには明らかに違いが出る。回路が変わってるんだからあたりまえなんだけど。少なくとも狙った方向性の違いはしっかり出ている。

EQを挿して、トーンカットなしのフルテンのとトーンカットありをくらべてみると、以下のようになっており、狙った周波数がきちんと出てきてくれていることがわかる。トーンカットなしのフルテンでは2kHzあたりではすでに減衰が始まっているが、トーンカットしたほうは3kHzくらいまでは減衰が始まらない。

トーンカットなしのトーンフルテン。2kHzあたりではすでに減衰が始まっている
トーンカットなしのトーンフルテン。2kHzあたりではすでに減衰が始まっている

トーンカット。3kHzあたりまで減衰が始まらない
トーンカット。3kHzあたりまで減衰が始まらない

こうして、トーンカットを切り替えることで「ギャリン」も「ズドパリン」も手に入るようになった。ポットとコンデンサ合わせても2000円かかっておらず、お得だったのではないでしょうか。

最強のギター宅録環境 ver. 2023 1月

編曲やレコーディングを真剣にやり始めて、他人様に提供するようになってから随分と経つ。その中で、自分にとってはエレキギターの録音が最も難しい課題のひとつとしてずっと立ちはだかっていた。もうずっといろんな手段を試してみたけど、最近ようやく満足に片足突っ込んだ音を録ることができるようになってきたので、それについて書く。なお、スタンスとして「高い機材買いまくればそりゃいい音で取れるけど、そうじゃなくて創意工夫で現実的な範囲で最高の音を録りたいんじゃ」というスタンスです。

最初に結論

  • 及第点出すならstrymon IRIDIUM買っとけば間違いない
  • マイク録りするなら覚悟が必要。そこは底無し沼だ、気をつけろ。自宅でやるなら以下の戦略を取ろう
    • 音量が小さくてもいい音が出せるセッティングを突き詰める
    • マイキングがかんたんなセッティングを突き詰める
  • 「手軽に安価でシミュレーターよりいい音」を出せるリグは以下の通り
    • アンプヘッド:MV50-CL
    • キャビネット:クローズドバックの1x12inch
    • お好きな歪みやプリアンプペダル:おすすめはValvenergyシリーズ
    • マイク:beta57a

strymon IRIDIUM買っておけば間違いない

strymon IRIDIUM(サウンドハウス)

これ。とにかくこれ買えば間違いない。買う、挿す、録るで及第点の音が出るバケモン。

VSTプラグインのいいところだめなところ

VSTプラグインとして機能するアンプシュミレーターにもいいものが結構あるのだけれど、それでもやっぱりクリーン〜クランチはどうしてものっぺりとしがちだと思う。あと、どうしてもピッキングに対してちょっと反応が悪いな、というものが多いですよね。そういうシミュレータは「ピッキングが悪くてもそれなりの音が出る」という意味では良いんだけど、じゃあ最後にミックスしてみたときに、どうしても存在感が薄くなりがち。シンセサウンドの楽曲にギターを足したいみたいなときはむしろその「のっぺりさ」が良かったりするし、集中して音源作ってるときは「意外といいじゃん」って思ったりもするんだけど、いざプロの音源を聞いたあと俯瞰の耳で自分の音を聞くと「あれ〜〜〜??? プロの音は"そこでアンプがちゃんとなってる立体感、空気感"があるのに、自分の音はなんか立体感がぜんぜんない!」となりがち。セッティングを突き詰めるとVSTプラギンでも立体感が出たりするのかもしれないが、正直セッティング詰めるの難しすぎる。

IRIDIUMが問題を解決してくれる

VSTプラギン系は「ニュアンスの出にくさ、立体感」に課題があった。

で、いろいろ研究した結果、ニュアンスのでやすさについては「アンプシミュレーションの部分の質」が支配的であり、"そこでアンプがちゃんとなってる感じの立体感、空気感"を作るのに支配的な要素はどうやらキャビシミュ、あるいはIR(インパルスレスポンス)なのだ、ということがわかってきた。つまり、アンプシミュレーション部分で演奏のニュアンスをしっかり出して、IR部分で立体感を出そう、という話になる。

Kemperの良いrigなどについては、この「アンプシミュレーションの部分」が頭抜けている印象で、正直そこに関してはIRIDIUMではかなわないかな、と思う。しかし、IRIDIUMについてはIRの部分がマジでよくできすぎていて、「あんまり設定突き詰めずにパッとさしてシュッと録る」だけでリアルアンプの音が耳元でする。すごい。しかもIRIDIUMのアンシミュ部分がダメなのかっていうと全然ダメじゃなくてこれもう好みのレベルでしょ、っていうくらい良い。

で、そうなると「じゃあべつにIRIDIUMじゃなくてよくて、いいIRデータ買って任意のローダーにつっこめばいいじゃん」という話になりそうなもんだけど、そうでもない。というのは、同じIRデータでも、IRローダーによって全然音が異なる。IRIDIUMはIRローダーとしてもめちゃめちゃ質が高くて、正直いって化け物じみている。また、roomノブで「空気感をどれだけ含めるか」というのが調整できて、「空気感、立体感」のリアルさで言うとIRIDIUMがまじで最強。

わたしは趣味としてさまざまなひとが録音したものを聴き比べていて、Kemperで録音されたもの、strymonで録音されたものをそれぞれいろいろ聞いたが、「デフォルト状態で、挿して録ったらもう"ちゃんとアンプがなってる音がする"」という点においてはKemperを大きく突き放してIRIDIUMが優れていると感じた。そして、実際に自分で使ってみても、「いままでVSTプラギンですごく一生懸命音作りしてたのなんだったんだ」って思うくらいにリアルなアンプサウンドが録れるし、お値段もKemperと比べたら全然お安いので(まあKemperほどの機能がないので、単純に比べるものではないのはそれはそう)、とりあえずギター宅録で及第点出すならIRIDIUM使っておけば間違いない。

IRIDIUMで満足できない場合はマイク録りに……しかしマイク録りには覚悟が必要

じゃあIRIDIUMでいいじゃん、となりそうなんだけれど、実はIRIDIUMにも苦手なところはある。それが「どクリーンの音色」だと思っていて、ちょっとサチュレーションがかかってきたり、クリーンよりのクランチくらいだと気にならなかった「ラインっぽさ」が、どクリーンだとまだ、少しだけ残っているのだ。ギター単体で聴くとそうでもないんだけど、オケに混ぜていくにつれて「あれ? プロの音と立体感、リアル感が違う」となっていく。そこでようやく「ついに……マイク録りか?」という話になる。結局IRは「スピーカーが空気を震わせてそれをマイクがひろったときにどうなるか」をシミュレーションしているわけで、それが追いつかない以上、「本当にスピーカーで空気を震わせてマイクで拾うしかない」という話になる。

しかし、マイク録りにはさまざまな問題がつきまとう。

  • リアルアンプが必要(高い……)
  • リアルキャビネットも必要(高い……)
  • 騒音問題(でかい音でアンプ鳴らさないといい音でないんでしょ?)
  • マイキングむずかしい問題(なんかアンビエントとか……オンマイクとかオフマイクとか……位相とか……オフアクシスとか……)

とくに問題になるのは騒音問題で、「外に出る音は小さい音で」というのは最優先というか「前提事項」となるはずだ。そうなってくると、その前提をもとにどうやっていい音で録るか、ということを考えることになる。

小さい音でいい音の鳴るアンプヘッドを使う

当然のことながら、家で twin reverb みたいなくそでか出力アンプをそのまま鳴らすわけにはいかない。そのまま鳴らせる環境があるひとはそれもうプライベートスタジオがあるようなもんで、ちまちま宅録用システム組むのなんかやめてとっとと最高の環境で録れという話になる。一方、じゃあ小さい音の出るアンプ、となると、だいたいがトランジスタのわけわからんカッチカチの音が出るような練習アンプがほとんどである。そうなってくると、実際の選択肢は実はそんなに多くない。

チューブアンプならば、5Wとか、せめて7Wくらいの出力のフルチューブアンプが限界だろう。たぶん7Wでもかなり住環境を選ぶと思う。5Wくらいの出力のアンプ、さいきんはそれなりに存在していて、blackstarとかLaneyのアンプは結構良さそうだった。音が好きならそれらを選ぶのもありだと思う。あるいは、自分の好きなアンプを買って、アッテネーターを利用して出力を下げるという方法もある。ただどちらにしても、コストがそれなりにかかってきてしまう問題はある。後述するが、自宅録音にオープンバックのキャビはハードルが高いので、オープンバックになってることが多いコンボアンプではなくてヘッド+クローズドバックのキャビ、というセットがおすすめになるが、そうなってくるとだいぶお金が……。まあライブでもリハでも使える、ということを考えたら安い、と思うこともできなくはなさそうではある。アッテネーターについてはUniversal AudioのOXがデファクトスタンダードとなっているが、まあ高いですよね……。また、歪みをアンプで作る場合、「そのアンプのキャラクターの歪みしか録音できない」という問題は起こる。べつのタイプの歪みを録音するためにまたヘッドを買って……ということができるのであればよいが……。好きなアンプヘッドとOX買えるなら素直に買っとけばそこでゴールだと思うのでそれでいいです。ぼくは無理です。

ではモデリング系のデジタルアンプはどうか。正直あまりおすすめしない。実は小規模なライブで使うには一台でいろんな音だせて便利だったりするんだけど、レコーディングのような「繊細なタッチまで拾いたい」みたいな用途にはやっぱりあまり向かないと思っている。例外としてFenderのtonemasterシリーズはかなり良さそうであった。まあでも物理的にでかいよねって話はある。この分野は日進月歩なのでそのうち真空管アンプはいらなくなるかもしれない。はやくその日が来て欲しい。

で、じゃあなにがおすすめかというと、Nutube搭載のVOXのMV50-CLと任意のプリアンプペダル(や歪みペダル)の組み合わせだ。MV50シリーズはどのアンプも素晴らしい音がするが、このMV50-CLは、真空管らしいニュアンスやコンプレッション感がしっかりありながらも、bassとtrebleを12時にするとかなりフラットな出音が出てくる。ギターの特性やピッキングニュアンスもかなり素直に出力される。また、MV50シリーズの中で唯一EQがtoneツマミでははくtreble/bassの2バンドとなっている。また、MV50の他のシリーズも歪みのキャラクターはかなりいいんだけど、どうしても「プリアンプ感」があって、「パワー管が真空管で駆動されている感じ」がしない。CLはMV50シリーズの中で一番パワー管まで真空管のアンプっぽい音が出てくる(実際はパワーアンプ真空管じゃないんだけど)。その特徴を活かして、これを「音量を落としてもいい音がちゃんと出る真空管パワーアンプ」として扱う。

MV50シリーズにはsend/returnがついていないことがよく弱点として挙げられるが、MV50-CLを真空管パワーアンプ扱いした上で、前段のプリアンプペダルや歪みペダルで好みのキャラクターをつけると良い。で、そのペダルの後段に空間系ペダルを入れてしまえば、「プリアンプでキャラ付け => send => 空間系 => return => パワーアンプで増幅」といういつもの考え方で音作りができる。本物の真空管アンプの歪みがほしいならNutube搭載のペダルを使えばかなりいいところまで行く。しかも、別のキャラクターの歪みや別のキャラクターのクリーンサウンドが欲しくなったら、ペダルだけ買い足せば良い。宅録環境としてはかなりおすすめできる考え方だ。valvenergy全シリーズ欲しい。

キャビネットにはクローズドバックの12インチ一発を使う。マイクは一本。多くてもオンマイク2本。

で、ようやくキャビとマイクの話。自宅録音で、アンビエントを録るのはおすすめしない。だって自室はいいアンビエントがあるスタジオじゃないんだから。そもそもアンビエントの環境がよくないのにいいアンビエント録るのは不可能。プラグインで高品質なリバーブをあとからかけて、アンビエントの代わりとしましょう。というわけで、宅録では立てるマイクはオンマイクだけがよい。で、そもそもマイク1本で拾えるのはスピーカーひとつだし、スピーカーは一発でよい。でかいし。

じゃあ何インチのスピーカーにすべきかっていうと、やはり12インチが置けるなら12インチを使うべきだろう。8インチのスピーカーも使ってみたことがあるが、ローは工夫次第でいい感じにできるんだけど、小さいスピーカーだとどうしても歪ませたときに音がへんにシャリシャリしてしまう。具体的に言うと8khzあたりが変なふうに再生される感じがする。それを狙っているのでない限り、ちょっとおすすめできない。EQであとから8khzあたり削ると少しマシになるので、どうしても部屋に8インチくらいまでしかおけない、というひとはそういう手段でトリートメントしてもいいかもしれない。しかしそういう場合は素直にIRIDIUM使った方が幸せになりそう。

そして、重要なポイントとして、オンマイクで録ることを前提に考えるのであれば、キャビはクローズドバックにするべきだと思う。オープンバックのキャビネットは、エアーで聴いているとすごくいい音なんだけど、それはフロントから出ている音とバックから出ている音がエアーでミックスされていい音に聞こえているわけで、この「耳に聞こえているいい音」をオンマイクのみで集音するのは不可能だと思った方がよい。「部屋鳴りは録らない。オンマイクのみ」の方針でいくなら、ぜったいにクローズドバックがおすすめである。実際ぼくは1ヶ月くらいずっとオープンバックのキャビで録音しては「どうしても耳で聴いているような音で集音できない」と悩んでいたが、このことに気づいてクローズドバックに変えたら「耳で聞いてる音にかぎりなく近い音」が簡単に集音できて拍子抜けした。

多分この自宅録音システムで一番金がかかるポイントがキャビだと思う。が、自作できるならばそうすると安く上がるという話はある。ぼくは友人が作ってくれた自作キャビを使っている。このキャビはオープンバックだったので、寸法を測ってホームセンターで木材を買って自分でクローズドバック化した。音をDIYしていけ。

マイクは何を使えばいい? どうセッティングすればいい?

定番はSM57で、実際いい音だと思う。ただ、これはわたしの趣味の話なんだけど、ちょっと高域がキツく、低域の解像度が低く感じてしまう。SM57を使うのであれば、もう一本コンデンサマイクなどを同時にたててミックスしてやりたくなる。一本のマイクで集音することを考えるなら、わたしのおすすめはbeta 57Aを使うことで、SM57のいいところを残しつつ、高域は少し滑らかに、低域も(コンデンサマイクほどではないが)解像度高く録音することができる。しかもお値段もお安い。推しです。SM7Bも結構良さそうだとおもった。ただ、どのマイクを使うかっていうのはこれはもう好みの問題で、普通にプロの現場で使われているようなマイクならなんでも好きなものを使うと良いと思う。Youtubeとかで比較動画とか結構上がっているのでそれを見て研究するのも楽しい。

マイクのセッティングについてはいろんなことを言う人がいるけど、ぼくがめちゃめちゃ参考にしたのはこの動画シリーズ。

www.youtube.com

ノイマンホームスタジオアカデミーはめちゃめちゃ勉強になるのでおすすめです。いろいろ実験してうまくなるしかない。

まとめと結論

  • 2023年1月時点でわたしが暫定的に出した「IRIDIUMで満足できない体になってしまったひと向けのコスパ最強の自宅ギター録音環境」について書いた
  • MV50-CLを真空管パワーアンプ扱いして、前段で好きなキャラクターをペダルで作ってその間をsend/return扱いする
    • これで「小音量でも真空管のいい音」が手に入る
  • キャビは12インチ1発、クローズドバックにする
    • これで自宅でもいい音でマイキングすることができる
  • マイクは好きなやつでいいと思う。マイキングは練習あるのみ。

strymon IRIDIUM使おう!!!!!!!! それで満足できるのが一番幸せ!!!! 沼に近づいてはいけない!!!!!

これ以上の音が欲しいならもう宅録はやめてスタジオ録音ですね。のお気持ちです。

ライブの際にBPMを視覚的に教えてくれる便利なやつ作った

自分のバンドで使いたいから作った。

ニーズ

  • ライブをやるときに、セットリストが足元にあると便利。
  • BPMも同時にわかると便利
    • 便利なんだけど、ふつうBPM:88ですって言われてもそれがどれくらいの速さなのかはパッとわからない
    • 楽譜アプリとかで、視覚的にBPMがわかる(丸が点滅してくれる)やつもあるんだけど、ライブしてる途中にスマートフォンとかタブレットとかいじってるところあんま見られたくない
    • できればペダルボードの横とかに放置しておくだけで全曲のBPMを視覚的に教えてほしい。

機能

  • ライブでやる曲のリストをformタブから入力できる
  • prompterタブではそのリストが表示され、「signal」というカラムでその曲のbpmに合わせて「●」が点滅してくれる
  • share linkをコピーすると、アプリをインストールせずにバンドメンバーに展開可能
    • その際入力しておいたセットリストとbpmはURLから復元されるので便利
    • ブックマークしておけば設定を保存できるということでもある

問題点

  • share linkやインストール不要などのメリットを取ったせいで、スマホとかが自動スリープすることを防ぐことができない。ライブのときはスマホタブレット自体の設定で自動スリープを防いでほしい。あと電波がないとロードできない(電波があるところでロードしたあとは電波なくても動き続けるから実用上そんなに問題にならないはず)。

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BpmPrompter

黒鍵の「この音」、なんと呼ぶ問題

先日、絶対音感持ちだけど楽典には弱い(楽典に弱い、というのは本人談。ぼくがその人をみていてもそんなにめちゃめちゃ楽典弱いとも思わない。強いとも思わないけど)の友人が、調がB♭マイナーの楽曲のメロディーの中の、m3に当たる音を指して「ド♯」と言っていて、軽い違和感を持った。一般的にはB♭マイナーの楽曲を考えたら「シ♭-ド-レ♭-ミ♭-ファ-ソ♭-ラ♭-シ♭」というスケールを思い浮かべるので、B♭マイナーの楽曲の中で「レ♭あるいはド♯」で表される音が出てきたらそれは「レ♭」と呼ぶことが多いと思う。とはいえ、べつに「レ♭」でも「ド♯」でも、平均律の世界においてはその音高に1Hzの違いもなく、同じ音を指すので、違和感をもつくらいで、コミュニケーションに齟齬が起こることもないのでそれ自体に問題はないし、それが間違いだとは(ぼくは)思わない。

で、ちょっといろいろ考えていたんだけど、じゃあ自分がもし、とくに調などの文脈なしに、いきなりピアノの前に連れてこられて「ドの半音上、レの半音下に位置するこの黒鍵の音はなに?」と聞かれたら、たぶんその友人と同じく「ド♯」と答えると思う。調というコンテキストがない状態で考えたときに、そこに位置する黒鍵の音名は「レ♭み」よりも「ド♯み」のほうがずっとずっと強い。

じゃあ「♯」を基本に考えているのかというとぜんぜんそんなことはなくて、「レの半音上、ミの半音下の黒鍵」は「レ♯」だとちょっときもちわるくて「ミ♭」が収まりがいい。「ファの半音上でソの半音下」は「ソ♭」というよりは「ファ♯」だし、「ラの半音上でシの半音下」は「ラ♯」よりも「シ♭」が収まりがいい。おもしろいのは「ソの半音上でラの半音下」で、これは「ソ♯」でも「ラ♭」もどちらも同じくらいに収まりが良いと感じる。そしておそらくこれは楽譜を読んで音楽を演奏する多くのひとと共有できる感覚なのではないかと思っている。

これにはカラクリがあって、楽譜を読んで音楽を演奏する際、ぼくたちは臨時記号(おたまじゃくしの隣に付く♯や♭)によって半音変化させることよりも、調号(ト音記号とかヘ音記号のよこに書かれる♯や♭)によって半音変化させることのほうがずっと多い。それは考えてみれば当然のことで、もし調号で半音変化させるよりも多く臨時記号で半音変化させるような楽譜があるのであれば、それはそもそも別の調として捉えるべきメロディを間違えて捉えて書いた譜面だとみなせるはずだ。

ここで、「ファ♯とソ♭は同じ音ですが、調号においてはどっちの読み方が頻出ですか」ということを考えてみる。ちょっと考えればわかるんだけど、ファ♯が調性記号に初めて出てくるのは、キーCから♯がひとつ増えるキーGで、そのあとD, A, E, Bと順に♯が増えていっても常にファ♯は出現する。一方ソ♭がいつ調性記号に出現するかというと、キーCから♭がひとつ増えるF,そこから順にひとつずつ♭がふえるB♭、E♭、A♭ まで出現せず、D♭きて初めて出現することになる。

最初の「ドの半音上、レの半音下」の話に戻ると、ここでも同じことが言えて、調号として普通に楽譜を読んでいて「ド#」が出てくる頻度と「レ♭」が出てくる頻度だったら、「ド♯」が出てくる頻度ほうが圧倒的に高い。だから、楽譜を読んで音楽を演奏する多くのひとにとって、調のコンテキストなしで見た時「ドの半音上、レの半音下に位置するこの黒鍵の音」は「ド♯」みがつよい、ということになるのだと思う。

ここで面白いのは、冒頭の「絶対音感はあるが楽典には弱い」友人とぼくの違いだ。ぼくは絶対音感がなく、ちょっとだけある相対音感と楽典で音楽を理解しがちなので、「この曲はキーB♭m」という意識が強く出た上で、「キーB♭mにおけるm3の音だからレ♭(つまり調号で考えている)」と感じる一方、絶対音感がある一方普段そんなに楽典を意識していないひとは調の前に「ドの半音上、レの半音下の"この音"」の意識が強いから、調のコンテキスト抜きにパッと「ド♯」という音名が出てくるのではないか。

今日思いついたことは以上です。まじでなんの役にも立たない雑文だなこれ

追記:

スケジュールとスコープはトレードオフだが、ではユーザーストーリーは?

よく、プロジェクトマネジメントにおいて、「品質、コスト、スケジュール、スコープ」はそれぞれトレードオフにあり、すべてを固定することはできないと言われる。ここにt_wadaさんの「質とスピード」の話を合流させると、品質はスケジュールとトレードオフではなくてむしろスケジュールに対する説明変数である、と見ることができる。結果、これは「コスト、スケジュール、スコープ」のトリレンマと理解することができるし、アジャイルな開発においては「スコープを調整していく」ということがよく行われる。

ここでいう「スコープ調整」については以前書いた。

アジャイルなプロジェクトマネジメントにおける「スコープ調整」でやるべきこと、やるべきではないこと - 猫型の蓄音機は 1 分間に 45 回にゃあと鳴く

それに対して以下のようなレスポンンスをいただいた。

いろいろなスコープ調整 - 半空洞男女関係

上記の「スコープとスケジュールはトレードオフ」という話とこれらの話をつなげて考えてみたい。

すると、スコープとスケジュールはトレードオフなのだが、ユーザーストーリーとスケジュールは実はトレードオフではない、と言えるかもしれない。スケジュールを固定したらスコープを動かさなければならない、あるいはその逆も真だが、ユーザーストーリーとスケジュールは両方固定できる。そういう考え方ができそうだ。「機能」は「できた」「できなかった」の二値なのだけれど、ユーザーストーリーは「めちゃめちゃ実現できた」「おおよそ実現できた」「少し実現できた」などのグラデーションがある、という見方はどうだろうか。このような見方をすると、スコープ調整は「当初狙った通りのユーザーストーリー達成の水準は狙えないので、水準は落とさざるを得ないが、どのようにしてなるべく水準を落とさずにリリースを迎えるか、そのためにどうタスクや機能を組み替えるか」を考えることだ、という発想に至れそうな気がする。

どうでしょうね?