映画:フィッシュマンズ観てきた

fishmans-movie.com

フィッシュマンズを最初に聴いたのは多分高校生の頃だったと思う。記憶はあまりたしかではないのだけれど、「Oh! Mountain」という、ライブ音源に編集を加えた一風変わったアルバムが多分ぼくのファーストコンタクトだったと思う。正直最初の印象は「なんだかよくわからない」という印象だった。けれど、なぜか「わからないけど心地よい」という状態に入り込んで、毎日、なんとなく聴いていた記憶がある。そうしているうちに、いつのまにかフィッシュマンズを好きになっていて、スタジオアルバムを収集し始めたという感じだったはずだ。ぼくが高校生だったのは1999年4月から2002年3月まで(のはず……)だから、ぼくはリアルタイムにギリギリ間に合ってない。リスナーとしては結構ぬるいリスナーだと思う。フィッシュマンズにめちゃめちゃに傾倒したということもないし。だけど、高校で出会ってからいままでずっと、フィッシュマンズを聴かなくなった時期はなかったし、自分のやる音楽には無意識に色濃くフィッシュマンズの影響がある、と自覚している。

どんなところが好きでフィッシュマンズを聴いてきているんだろう、と考えると、自分は「佐藤伸治のカリスマ」みたいなところにひっかかって聴いていたという感じではなかった。ちょっとでも演奏がズレたらまったく違うノリになってしまいそうな、リズム隊のタイトさに支えられた独特のグルーヴや、その上にのっかる意外と攻撃的なサウンドのギター、キーボード、それらが渾然一体となるとなぜかちょっとメランコリックな浮遊感が生まれる。そういうサウンドが好きで聴いてきたリスナーだった。リアルタイムが少しずれていることも重なって、「佐藤伸治の物語」みたいなものはあまり知らなかったしそこに惹かれているという感じではなかった。今回の映画が「佐藤伸治をめぐる壮大な振り返り」という感じの映画だったので、この映画で初めて自分の意識が「佐藤伸治というカリスマ」「佐藤伸治という物語」にアクティブに向けられたという感じだ。

そして、佐藤伸治というパーソナリティにはそこまで興味を持っていなかった自分が、佐藤伸治大振り返り会という趣のあるこの映画に触れて何を思ったかというと、「なるほどたしかにこれは強烈な個性だったんだなあ」という身も蓋もない感じの感想を得た。そして、改めて、自分は佐藤伸治という個人ではなくて、バンドとしてのフィッシュマンズが好きだったんだということが逆説的によくわかった。というのも、自分が一番聴き込んでいるスタジオアルバムは多分『ORANGE』か『空中キャンプ』で、次点で『KING MASTER GEORGE』かな、といったところなのだけれど、映画を観た感じだと、これらのアルバムの頃がもっとも「バンドとして」作品を作っている感じがあったのだなというのがよく伝わってきたからだ。『宇宙、日本、世田谷』もたしかに文句なしに名盤だし、『WALKING IN THE RHYTHM』とか大好きすぎるんだけど、アルバムを通して、という話で言うとどうしても『ORANGE』や『空中キャンプ』聴いちゃうんだよな。

というわけで、『映画:フィッシュマンズ』。ぼくにとっては、佐藤伸治というカリスマを歴史として知ることができて、その結果「フィッシュマンのバンドとしてのサウンドが好き」という聴き方以外の聴き方を教えてくれるような映画だったかなと思う。自分の好みの問題としては、今後もやっぱりフィッシュマンズサウンドが好きで聴き続けるんだろうけど、好きなバンドの楽しみ方が増えるのは純粋に嬉しいことだと思う。