VPoTになった

この10月から、VPoTという肩書がついた。公式な経緯などは会社のブログのほうに書いたのでそちらを読んでいただきたいのだけれど、こちらは個人の日記なので個人の日記レベルのことを書く。

VPoTになるまでは、テックリードという肩書で、社内を見渡して「あ、ここちょっと自分が入っていった方が物事がうまく進みそうだな」というところに入っていっては手を動かすというようなムーブをしていたのだけれど、冒頭に貼った記事のような経緯で、今は手を動かすことよりも、仕組みづくり、組織構造に起因する問題に対する解決となる構造を作ることなどが主な仕事になった。

じつは、ぼくは今の会社に入るときに明確に「CTOやそれに準ずる仕事はしたくない」と伝えた上で採用してもらっている。なのになぜ心変わりをして、いままたCTO業の一部のようなことをやっているか、ということを今日は書きたい。

そもそも、ぼくがなぜCTOやそれに準ずる仕事はしたくないと考えていたかというと、いままで携わってきた仕事の中で、一度CTO的な業務に挫折しているからだ。過去の仕事の中で、「もうここで自分がCTO業としてなにをやっても、これ以上の改善はできない」となってしまったことがある。メンバーマネジメントはそもそも自分に向いてないしメンバーマネジメントと向き合うと自分の精神がボロボロになってしまうことを学んだ。ならば、と、プロダクトを健全に開発できる構造を作り上げることに専念しようとしてみた。自分の考える問題感に対する解決を生み出すような課題設定はできた。けど、多くのステークホルダーを抱えながらその課題を組織の課題として打ち出しきることができなかった。できることはなんでもやろうとしたし実際に自分ができることはちゃんと全力で取り組み尽くしたとは思っている。そういう意味では「やり切った」のだけれど、成果としては「挫折」と言っていいと思う。プロダクトを成功に導いたとは言えないし……。それはひとえに自分の能力不足であったと思うし、もうその能力不足な自分のせいで様々なひとが笑顔でいられなくなるのをみたくなかった。

それなのにどうしてVPoTのポジションを打診されたときに(「しんぺいがやりたくないって言っていた仕事なのはわかってるのだけど……」とぼくに切り出した副社長が、ものすごく申し訳なさそうな顔をしていたのはちょっと面白かった)もう一度挑戦してみようと思えたのか。それはひとえに「いま自分がすごく恵まれた環境にいる」ということに、周りを見渡して気づいたからだ。

ぼくが入社したあとも会社は拡大を続け、エンジニアの数もとても増えた。そしていま周りを見渡すと、ぼくの入社以前からいるメンバーにも、後から入ってきてくれたメンバーにも、それぞれの得意領域においてぼくなんかよりもよほど優秀なアウトプットをどんどん出してくれるひとがたくさんいる。全体最適を考えたときに自分のやるべきことを再度自分に問い直したら、「じゃあぼくは、このひとたちの素晴らしい力が変な組織的な問題によって正しく機能しないみたいな状態を防ぎ、このひとたちの力が最大限に発揮できるような状態を作ることに尽力したほうがいい」とごく自然に思えた。嘘ごめんちょっと見栄張った。「ぼくがVPoTなんかやってる間に、みんなはエンジニアとしてのスキルをどんどん研ぎ澄ませるのに、ぼくはそれでいいの?」って少し思った。まあ少し思ったのはそれはそうなんだけど、それが気にならないくらいにそのメンバーたちのことは好きだし尊敬してるから、最後にはきちんと納得できた。

そして、エンジニアメンバーだけじゃなくて、部署外や経営陣を見渡してみたときに、「このひとたちに一度も理不尽に否定されたことがない」と気づいた。意見が異なるときにも、見えてるものが異なるときにも、いつでもみんな「しんぺい(さん)が言うならそれはそうなんだろう」から始めてくれていることに気づいた。けどそれは「単に鵜呑みにしてぜんぶ受け入れる」ということではなくて「そうなんだろう」から始めた上で、ぼくに見えていない範囲のことを説明してくれて、その上で一緒に問題解決に動こうとしてくれるひとしか周りにいないことに気づいた。

そういうひとたちが「しんぺいにこの責務を担ってほしい」と言ってくれるのであれば、今度は前回よりも少しはうまくやれるかもしれない。少なくとも、孤独に挫折してくことはないはずだ。このひとたちはぼくを助けてくれるし、ぼくに助けを求めている。そう思えたら、自然と「ぼくがやります」と言えるようになった。嘘ごめんちょっと見栄張った。腹くくるまでかなり時間かかった。かなり時間かかったけど、最後にはしっかり腹くくれた。

あとはやっぱり前CTOのささたつさんの存在はぼくにとっては大きくて、ささたつさんがCTO業の片割れをやってくれるなら、互いに補い合ってやっていけるんじゃないかな、と思えた。じつはぼくがVPoTを引き受けたときにはまだVPoEをだれに頼むから決まってなかったんだけど、ぼくは「ささたつさん以外にいないでしょ」と思っていたし、実際ささたつさんを猛プッシュしすぎて「圧がすごい……」っていわれたりもしたんだけど(笑)、目論見(?)どおりささたつさんがVPoEを引き受けてくれたので、まあこれは結果オーライみたいなところはある。

それと、そーだいさん(id:Soudai)が手伝いに来てくれてることもかなり大きい。そーだいさんの声くらい大きい。そーだいさんはぼくが困ったとき、悩んでるときに組織マネジメントの先輩としてすごく真剣に相談に乗ってくれる。その安心感も、ぼくがVPoTを引き受ける後押しをしてくれた。

というわけで、VPoTを引き受けるときの葛藤について、個人の日記を書いた。完璧にやれる自信なんかないけど、その一方で「今必要とされてる役割」だと思うし、「そして今やるなら自分が適任だ」という自負もある。腹くくったので、「やり切った」となるまでは全力投球しようと思う。